ローマの将軍たちは、ユダヤ人を脅かして、彼らを降伏させようとした。彼らは抵抗した捕虜をむちで打って苦しめ、都の城壁の前で十字架にかけた。こうして、殺される者が毎日何百人とあった。そして、この恐ろしいことは、ヨシャパテの谷一帯とカルバリーに無数の十字架が立てられ、その間を歩くことさえ困難になるまで続いた。 GCJap 38.1
ピラトの法廷で叫ばれた「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよい」という恐ろしいのろいの言葉は、このように悲惨な罰となった(マタイ27章25節)。 GCJap 38.2
しかし、ティトゥスは、なんとかしてこの恐るべき状態をやめさせ、エルサレムを全滅から救いたいと思った。彼は、谷間に積まれた死体を見て戦慄した。彼は、オリブ山の上から壮麗な神殿を眺めて、非常に心を打たれ、その石一つにでも触れてはならないと命令した。ティトゥスはこの要害を占領するに先立って、ユダヤの指導者に熱心に訴え、彼がこの神聖な場所を血で汚さなくてもよいようにしてほしいと言った。もし彼らが出てきて、他の場所で戦うことを望むならば、ローマ人はだれも神殿を汚すことはしないと言った。ヨセフス自身も大いに熱弁をふるって、ユダヤ人に降伏をすすめ、自分たちを救うと共に都と神殿とを救うように訴えた。しかし、こうした言葉に対して、彼は 激しいのろいの声を浴びせられた。最後の調停者として訴える彼に、投げやりが投げられた。ユダヤ人は、神のみ子の懇願を退けてしまったが、今では忠告も懇願もただ彼らの心をかたくなにしてあくまで抵抗させるだけであった。神殿を滅ぼすまいとしたティトゥスの努力は無駄であった。彼より偉大なお方が、その石一つでもくずされずに、他の石の上に残ることはないと宣言されていたのである。 GCJap 38.3
ユダヤの指導者たちの盲目的頑強さと、城内で行われた憎むべき犯罪とが、ローマ人の恐怖と激怒をあおり、ティトゥスはついに、神殿を襲ってこれを占領することを決めた。しかし彼は、できることならば神殿を破壊から守ろうとした。けれども彼の命令は無視された。彼が夜、天幕に帰ったあとで、ユダヤ人は、神殿から城外に出て、敵の兵隊を攻撃した。交戦中、一人の兵士が柱廊のすきまから中へたいまつを投げ込んだ。たちまち、神殿のまわりの杉材の部屋は火に包まれた。ティトゥスは将軍や兵隊を連れてその場に行き、火を消すように兵隊たちに命じた。しかし、その命令は顧みられなかった。怒り狂った兵隊たちは、神殿に隣接した部屋にたいまつを投げ込み、そこに避難していた多くの者を剣にかけて殺した。血が神殿の階段を川のように流れた。幾千というユダヤ人が死んだ。戦いの物音に混じって、「イカボデ」―─栄光は去ったと叫ぶ声が聞こえた。 GCJap 39.1
ティトゥスは、兵隊たちの激しい怒りをしずめることが不可能であることを知って、将校たちと共に中に入り、神殿の内部を調査した。彼らはその壮麗さに目を見張った。そして、火はまだ聖所まで回っていなかったので、必死になってこれを守ろうとし、飛び出して行って、ふたたび兵隊たちに火の進行を止めるように訴えた。百卒長リベラリスは、その職権によって、服従を強いようと試みた。しかし、皇帝への尊敬でさえ、ユダヤ人に対する激しい敵意と戦いの恐ろしい興 奮と略奪に対する飽くことを知らない欲望の前には、どうする力もなかった。兵隊たちは、金色に輝く周囲のものがみな、燃えさかる炎に照りはえるのを見て、聖所の中には無数の宝物がたくわえられていると考えた。だれも気づかないうちに、一兵卒が、扉のちょうつがいの間から火のついたたいまつを中に投げ入れた。建物全体は、一瞬のうちに炎に包まれた。立ちこめる煙と火のために、将校たちは、避難するほかなかった。そして、広大な建物は、焼失するままになってしまった。 GCJap 39.2