新皇帝カール五世(チャールズ五世)がドイツの帝位についた。するとローマの使節は、急いで祝いの言葉を述べると共に、彼の権力を用いて宗教改革を押さえつけるように勧めた。他方、カールが帝位につくにあたって大いに力があったザクセンの選挙侯は、ルターに発言の機会を与えるまではどんな処置もとらないように嘆願した。こうして、皇帝は、非常な当惑と苦境に立たされた。法王側は、ルターに死刑を宣告する勅令が出なければ満足しなかった。選挙侯は、「皇帝もまた他のだれも、ルターの著書に反論していない」と断固として言明し、それゆえに、「ルターは通行券を与えられて、学識のある、敬虔で公平な裁判官による法廷に出頭できるようにすべきである」と願い出た。 GCJap 168.1
すべての党派の注目は、カールの即位後まもなくウォルムスで開かれたドイツ国会に注がれた。ドイツの諸侯たちの多くは、審議のために初めて若い皇帝に会見するのであり、この国会において審議すべき重要な政治問題やその他の案件があった。祖国のあらゆる地方から、教会と国家の高官たちが集まった。高貴の生まれで、勢力を持ち、世襲の権利を主張して譲らない領主たち、階級と権力における優越感に意気揚々とし GCJap 168.2
ている威厳ある聖職者たち、優雅な騎士たちとその武装した家臣たち、外国や遠国の大使たちなどが、みなウォルムスに集まった。しかし、この大会議において、最も興味深い問題は、ザクセンの改革者ルターの件であった。 GCJap 169.1
カールはこれ以前に、選挙侯に向かって、ルターを同伴して国会に来るように指示し、彼に対する保護と、問題点に関し、資格ある人物と自由に討議することとを約束していたのであった。ルターは、皇帝の前に出ることを切望していた。この時、彼の健康は非常に損なわれていたが、しかし彼は選挙侯に次のように書いた。 GCJap 169.2
「もしわたしが健康な体でウォルムスに行くことができなければ、病気のまま運ばれて行きたいと思います。というのは、もし皇帝がわたしを召しておられるなら、それは神ご自身の召しであることを、わたしは疑うことができないからです。もし彼らがわたしに暴力をふるうようなら、そしておそらくそうすることでしょうが(なぜなら彼らがわたしに出頭を命じるのは、わたしから教えを受けるためでないからです)、わたしはこれを主のみ手にゆだねます。燃える炉の中から三人の青年を救い出された神は、なお生きて支配しておられます。もし神がわたしをお救いにならなくても、わたしの命など取るに足りないものです。ただ福音がよこしまな人々の嘲笑を受けることがないように努めましょう。彼らが勝利を得ることのないように、わたしたちは福音のために血を流しましょう。すべての人の救いのために最も貢献するのは、わたしの命であるか、それとも死であるか、それを決定するのはわたしではありません。……あなたはわたしにどんなことでも期待なさって結構です。……ただし、逃げることと信仰を取り消すこと以外は。逃げることなど、わたしにはできませんし、まして、取り消すことなどできません。 GCJap 169.3