ルターは、翌日、議会に出頭するように命じられた。式部官が彼を議場に案内することになっていたが、そこまで行くのが非常に困難であった。どの街路も、法王の権威にあえて抵抗した修道士を見ようとする群衆でいっぱいだった。 GCJap 179.2
彼がまさに、裁判官たちの前に出ようとした時、幾多の戦いを経た英雄である一老将軍が、やさしく彼に言った。「哀れな修道士、哀れな修道士よ。お前は、わたしや、その他の将軍たちのどのような血みどろの激戦よりも、もっと崇高な戦いをしようとしている。だが、お前の主張が正しく、お前がそれを確信しているならば、神の名によって前進せよ。何も恐れるな。神はお前をお見捨てにならないだろう」 GCJap 179.3
ついに、ルターは、議会の前に立った。皇帝が玉座を占めていた。彼のまわりには、帝国内の最も著名な人々が並んでいた。マルチン・ルターが自分の信仰の弁明のために、その前に立ったような、堂々たる人々の前に立った者は、これまでになかった。「このように彼があらわれたこと自体が、法王制に対する著しい勝利であった。すでに法王は、この人間を罪に定めた。しかるに彼は、今、法廷に立っている。そして、この事実そのものが、この裁判の場が法王以上のものであることを示していた。法王は彼を、聖務禁止に処し、すべての人間社会から切り離した。それにもかかわらず、彼は、丁重な言葉で召喚されて、世界で最も荘重な議会に迎えられた。法王は彼に永久の沈黙を課したにもかかわらず、今、彼は、キリスト教国の最も遠隔の地から集まった、幾千という深い関心を持った聴衆の前で語ろうとしている。こうして、ルターという器によって、大きな改革が起きたのである。ローマは、すでに、その王座から降りつつあったが、この屈辱をもたらしたのは、一修道士の声であった」 GCJap 180.1
卑しい身分のルターは、この権力を持った有爵議員たちの前で、恐れ、当惑しているように思われた。幾人かの貴族は、彼の心中を察して彼に近寄り、その中の一人が次のようにささやいた。 GCJap 180.2
「体を殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな」。また、他の者は、「あなたがたが会堂や役人や高官の前へ引っぱられて行った場合には、……言うべきことは、聖霊がその時に教えてくださる」と言った。こうして、キリストの言葉が、世の偉大な人々によって持ち出され、試練に直面した主のしもべを強めたのである。 GCJap 180.3
ルターは、皇帝の玉座のすぐ前の位置に案内された。満員の議会が静粛になった。そこで、式部官が立ち上がり、積み重ねられたルターの著書を指さして、ルターに二つの質問に答えることを要求した。すなわち、彼が、これを彼の著書と認めるかどうか、また、その GCJap 180.4
中で論じた主張を取り消すかどうか、ということであった。彼の著書の名が読み上げられ、ルターは、第一の質問に対して、それらの書物が彼のものであることを認めた。「第二に関しては、それが信仰と魂の救いに関する問題であり、天においても地においても、最大で最も尊い神の言葉を含むものでありますから、よく考えずに答えることは慎重を欠くことになります。わたくしは、事情の要求に十分答えず、あるいは、真理の命じること以上を述べて、『人の前でわたしを拒む者を、わたしも天にいますわたしの父の前で拒むであろう』というキリストの言葉に対して罪を犯すことになるかもしれません(マタイ10章33節)。このために、わたくしは、神のみ言葉に罪を犯さずに答えることができますよう、時間が与えられることを、陛下に伏して懇願いたします」と彼は言った。 GCJap 181.1