第68章 チクラグにおけるダビデ
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- 第1章 罪悪はなぜ発生したか
- 第2章 天地創造のいわれ
- 第3章 天地創造の1週間
- 第4章 エデンの園の悲劇
- 第5章 人類救済の計画
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- 第33章 シナイからカデシへ
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- 第59章 イスラエル最初の王サウル
- 第60章 サウルの不遜な態度
- 第61章 サウル退けられる
- 第62章 ダビデ油を注がれる
- 第63章 ダビデとゴリアテ
- 第64章 サウル、ダビデを追う
- 第65章 ダビデの寛容
- 第66章 サウルの死
- 第67章 古代と現代の魔術
- 第68章 チクラグにおけるダビデ
- 第69章 ダビデの即位
- 第70章 ダビデの治世
- 第71章 ダビデの罪と回心
- 第72章 アブサロムの反逆
- 第73章 ダビデの晩年
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第68章 チクラグにおけるダビデ
本章は、サムエル記上29、30章、サムエル記下1章に基づくPP 359.1
ダビデとその部下たちは、ペリシテ人とともに、戦場まで行進してきたが、サウルとペリシテ人との戦いにはまだ参加していなかった。両軍が戦闘の準備をしていた時に、エッサイのむすこは、非常に困難な立場に立たされた。彼は、ペリシテ人といっしょに戦うものと期待されていた。もしも戦闘の半ばで、彼が守っていた戦線を捨てて退却するならば、彼は臆病者呼ばわりをされるだけでなくて、彼を保護し信頼したアキシの恩を忘れて、反逆した者と言われることであろう。こうしたことは、彼の名折れになるばかりでなく、サウルよりも恐ろしい敵の怒りをこうむることになるのであった。しかし彼は、たとえ一瞬であっても、イスラエルを敵に回して戦うことはできなかった。もしも彼が、そんなことをするならば、彼は、自国の裏切り者となり、神と神の民との敵となるのであった。それは、イスラエルの王位につく道を永遠に閉ざしてしまったことであろう。そして、もしもサウルが、戦いにおいて殺されるようなことになれば、その責めはダビデに負わされたことであろう。PP 359.2
ダビデは、自分の行動がまちがっていたことを痛感した。主と主の民の仇敵のところよりは、山々の、神の城塞に隠れたほうがどんなにかよかったのである。しかし、主は、深く彼をあわれんで、そのしもべの過失を罰することをせず、彼が苦悩と混乱に陥るままにしておかれた。ダビデは神の力を見失い、完全な忠誠の道からそれたとは言え、なお、神に忠実に仕えようと思っていたのである。PP 359.3
サタンと彼の軍勢が、忙しく神とイスラエルの敵を助け、すでに神に拒否された王に対抗して計画をたてていた時に、主の天使は、ダビデが陥った危険から彼を救うために働いていた。天使たちは、切迫した戦闘にダビデとその部下たちが参加していることに反対させようと、ペリシテの君たちを動かしていた。PP 359.4
ベリシテの君たちはアキシにつめよって叫んだ。「これらのヘブルびとはここで何をしているのか」。アキシはこの重要な同盟軍を去らせようとは思わないで言った。「これはイスラエルの王サウルのしもベダビデではないか。彼はこの日ごろ、この年ごろ、わたしと共にいたが、逃げ落ちてきた日からきょうまで、わたしは彼にあやまちがあったのを見たことがない」(サムエル記上29:3)。PP 359.5
しかし、ペリシテ人の君たちは、怒って彼らの主張を曲げなかった。「この人を帰らせて、あなたが彼を置いたもとの所へ行かせなさい。われわれと一緒に彼を戦いに下らせてはならない。戦いの時、彼がわれわれの敵となるかも知れないからである。この者は何をもってその主君とやわらぐことができようか。ここにいる人々の首をもってするほかはあるまい。これは、かつて人々が踊りのうちに歌いかわして、『サウルは1000を撃ち殺し、ダビデは万を撃ち殺した』と言った、あのダビデではないか」(同29:4、5)。ペリシテ人の君たちは、彼がペリシテの勇士を殺して、イスラエルを勝利に導いた時のことをはっきりと覚えていた。彼らは、ダビデが自国民と戦うとは思わなかった。もしも彼が戦いの最中に、敵の側につくならば、ダビデは、サウルの全軍以上の損害を与えることができるのであった。PP 359.6
こうしてアキシは、彼らに従わなければならなくなり、ダビデを呼んで言った。「主は生きておられる。あなたは正しい人である。あなたがわたしと一緒に戦いに出入りすることをわたしは良いと思っている。それはあなたがわたしの所にきた日からこの日まで、わたしは、あなたに悪い事があったのを見たことがないからである。しかしペリシテびとの君たちはあなたを 良く言わない。それゆえ今安らかに帰って行きなさい。彼らが悪いと思うことはしないがよかろう」(同29:6、7)。PP 359.7
ダビデは、自分のほんとうの気持ちをさとられまいとして答えた。「しかしわたしが何をしたというのですか。わたしがあなたに仕えはじめた日からこの日までに、あなたはしもべの身に何を見られたので、わたしは行って、わたしの主君である王の敵と戦うことができないのですか」(同29:8)。PP 360.1
アキシの返答は、ダビデの心に恥辱と悔悟の戦慄を与えたにちがいない。彼は、主のしもべとしてあるまじき欺瞞行為を行ったことを痛感していたのである。王は言った。「わたしは見て、あなたが神の使のようにりっぱな人であることを知っている。しかし、ペリシテびとの君たちは、『われわれと一緒に彼を戦いに上らせてはならない』と言っている。それで、あなたは、一緒にきたあなたの主君のしもべたちと共に朝早く起きなさい。そして朝早く起き、夜が明けてから去りなさい」(同29:9、10)。こうしてダビデは、自分が落ちこんだわなをのがれて、自由になることができた。PP 360.2
ダビデと彼の600人の従者たちは、3日の旅を終えて、彼らのペリシテの故郷チクラグに到着した。ところが彼らを迎えたのは、荒れ果てた光景であった。アマレク人は、ダビデとその軍勢の不在に乗じて、彼らの領土に対するダビデの襲撃の報復を行った。彼らは、無防備の町を不意に襲撃して略奪し、火を放ってすべての女や子供たちを捕虜にし、多くの物を略奪して去ったのであった。PP 360.3
ダビデと従者たちは、その恐ろしさと驚きに声もなく、しばらくの間は、黒くくすぶる破壊の跡をながめて沈黙していた。そして、故郷がどんなに恐ろしい廃虚と化してしまったかに気がついたとき、戦いになれたこれらの戦士たちは、「声をあげて泣き、ついに泣く力もなくなった」(同30:4)。PP 360.4
ダビデは、ここでもまた、彼に信仰がなく、ペリシテ人の中に身を隠したことの懲らしめを受けた。神と神の民との敵の中に、どれほどの安全があるかを見る機会がダビデに与えられた。ダビデの従者たちは、こうした不幸の原因を彼のせいにして反抗した。彼は、アマレク人を襲撃したために、彼らの報復を招いたのであった。しかし、彼は、彼の敵の中での安全を過信し、町を無防備のままにしておいたのであった。兵隊たちは、悲しみと激しい怒りに気も狂わんばかりになり、どんな暴挙にでるかわからず、ダビデを石で打とうとさえした。PP 360.5
ダビデは、すべての人間的支援から切り離されたように思われた。彼が、この地上で大切にしていたものは、みな奪い去られてしまった。サウルは、彼を国外に追放した。ペリシテ人は、彼を陣営から追い出した。アマレク人は、彼の町を略奪した。彼の妻たちと子供たちは、捕虜になってしまった。そして、彼の親しい友は団結して彼に反抗し、彼を殺そうとさえした。ダビデは、このようにどうしようもなくなったとき、この悲運を憂慮しないで、熱心に神に助けを仰いだ。彼は、「主によって自分を力づけた」(同30:6)。彼は、自分の過去の生涯のいろいろな事件をふり返った。いったい、主が彼をお見捨てになったことがあろうか。彼は、神の恵みの証拠を数多く思い出して勇気づけられた。ダビデの従者たちは、不満とあせりによって、彼らの苦痛をさらに耐えがたくしていた。しかし、神の人は、さらに大きな悲痛の原因があったにもかかわらず、あくまでも忍耐した。彼は心の中で言った。「わたしが恐れるときは、あなたに寄り頼みます」(詩篇56:3)。彼自身は、この困難な事態から脱出する方法を認めることはできなかったが、神は、それを見ることができ、彼に何をすべきかをお教えになるのであった。PP 360.6
ダビデは、アヒメレクの子、祭司アビヤタルを呼んで、「わたしはこの軍隊のあとを追うべきですか。わたしはそれに追いつくことができましょうか」とたずねた。彼は答えて言った。「追いなさい。あなたは必ず追いついて、確かに救い出すことができるであろう」(サムエル記上30:8)。PP 360.7
この言葉を聞いて、悲しみ怒っていた人々の騷ぎは治まった。ダビデと従者たちは、すぐに逃走してい る敵の追跡を始めた。彼らがガザの付近で地中海に注ぐベルソ川に到着した時には、あまりの強行軍のために、200人は疲れ果ててあとに残った。しかし、ダビデは、他の400人を率いて、少しもひるむことなく、追撃した。PP 360.8
進軍の途中で、彼らは、疲労と飢えとで死にそうになっていたエジプトの奴隷を見つけた。彼は、食物と水を飲んで元気づいた。そして、彼は、侵入軍に加わっていた残酷なアマレク人の主人に捨てられて、死にそうになっていたことがわかった。彼は襲撃と略奪の模様を語った。そして、彼は、殺されたり主人に引き渡されたりしないという約束のもとに、ダビデの軍勢を敵の陣営に案内することになった。PP 361.1
陣営に近づいて、彼らが見たのは酒盛りの光景であった。勝利軍は、盛んな祝宴を開いていた。「彼らはペリシテびとの地とユダの地から奪い取ったさまざまな多くのぶんどり物のゆえに、食い、飲み、かっ踊りながら、地のおもてにあまねく散りひろがっていた」(同30:16)。すぐに、攻撃命令が下されて、追撃軍は猛然と敵に襲いかかった。アマレク人は、不意を打たれて、あわてふためいた。戦いは、その日一日中と翌日の夕方にまで及び、ほとんど全軍が壊滅した。らくだに乗った400人が逃亡しただけであった。主の言葉は実現した。「こうしてダビデはアマレクびとが奪い取ったものをみな取りもどした。またダビデはそのふたりの妻を救い出した。そして彼らに属するものは、小さいものも大きいものも、むすこも娘もぶんどり物も、アマレクびとが奪い去った物は何をも失わないで、ダビデがみな取りもどした」(同30:18、19)。PP 361.2
以前にダビデがアマレクの領内に侵入したとき、彼は、彼の手中に入った住民をみな殺しにしたのであった。もしも神の抑制力がなかったならば、アマレク人は、チクラグの人々を殺して報復したことであろう。彼らは、多くの捕虜を連れて帰って、彼らの勝利の栄誉をはなやかなものにし、後で彼らを奴隷に売ろうと思い、そのまま生かしておくことにした。こうして彼らは、無意識のうちに、神のみこころを実現し、捕虜たちに害を加えることなく、その夫や父のところへ返すことになった。PP 361.3
地上のすべての権力は、無限の神の支配下にある。最大の支配者や、最も残酷な圧制者に対して、神は言われる。「ここまで来てもよい、越えてはならぬ」(ヨブ38:11)。神の力は、悪の勢力をくじくために常に活動している。神は、人を滅ぼすためではなくて、彼らを矯正して保護するために、常に人間の中で働いておられる。PP 361.4
勝利者たちは、喜び勇んで帰途についた。後方に残った人々のところへ来た時に、400人の中の利己的で乱暴な人々は、戦いに参加しなかった者には戦利品の分けまえを与えるべきではないと言い張った。彼らは、妻と子供をとりかえしただけで十分であるというのであった。しかし、ダビデは、そのような取りきめを許さなかった。「兄弟たちよ、……主が賜わったものを、あなたがたはそのようにしてはならない。……戦いに下って行った者の分け前と、荷物のかたわらにとどまっていた者の分け前を同様にしなければならない。彼らはひとしく分け前を受けるべきである」(サムエル記上30:23、24)。こうして、このことは解決し、銃後の任務をりっぱに果たした者は、すべて、実戦に参加した者と同様に戦利品の分けまえにあずかることが、のちにイスラエルの律法として定められた。PP 361.5
ダビデとその従者たちは、チクラグから奪われた物を取り返しただけではなくて、アマレク人の羊や牛をおびただしく捕らえた。「これはダビデのぶんどり物だ」と言われた(同30:20)。ダビデは、チクラグに着くとこの戦利品の中から贈り物をユダの長老たちに送った。この分配の中には、ダビデが命をねらわれて、転々と場所を変えて逃亡しなければならなかった時に、山のとりでで彼とその従者に親切を尽くした人々が、皆忘れられないで含まれていた。追われる逃亡者の心にしみた彼らの親切と同情は、このようにして、心から感謝されたのである。PP 361.6
ダビデと彼の勇者たちが、チクラグに帰ってから、3日目のことであった。彼らは、破壊された家々の復 旧を急ぎながら、イスラエルとペリシテ人との間に当然起こったにちがいない戦争の知らせを、今か今かと待っていた。すると、突然、1人の使者が、「その着物を裂き、頭に土をかぶって」町に入ってきた(サムエル記下1:2)。彼はすぐにダビデの前につれ出された。彼は、ダビデの前にうやうやしく頭を下げ、彼を偉大な毛として認めたことをあらわし、彼の恩恵にあずかろうとしていた。ダビデは、戦闘のなりゆきを熱心に聞いた。逃亡者は、サウルの敗北と死、そして、ヨナタンの死を報告した。しかし、彼は、ただ事実だけでなく、それ以上のことを言った。彼は、ダビデが、残酷な迫害者サウルに対して、恨みをいだいているにちがいないと考えて、自分が王を殺した栄誉を受けようと望んだのであった。彼は、戦っている間に、イスラエルの王が傷つき、敵に激しく攻められているのを見、王の願いによって、自分が、彼を殺したと誇らかに言った。彼は、王の頭にあった冠と、腕につけていた金の腕輪をダビデのところに持ってきた。彼は、こうした知らせが喜び迎えられて、彼の果たした役割に対して、大きな報賞が与えられるものと思っていた。PP 361.7
しかし、「ダビデは自分の着物をつかんでそれを裂き、彼と共にいた人々も皆同じようにした。彼らはサウルのため、またその子ヨナタンのため、また主の民のため、またイスラエルの家のために悲しみ泣いて、夕暮まで食を断った。それは彼らがつるぎに倒れたからである」(同1:11、12)。PP 362.1
恐ろしい知らせの最初の衝撃がおさまった時に、ダビデは、他国人の使者と、彼が自認した犯罪のことを思い出した。首領のダビデは、「あなたはどこの人ですか」と若者にたずねた。「彼は言った、『アマレクびとで、寄留の他国人の子です』。ダビデはまた彼に言った、『どうしてあなたは手を伸べて主の油を注がれた者を殺すことを恐れなかったのですか』」(同1:13、14)。ダビデは、サウルを2度も自分の手の中に入れ、彼を殺すように勧められたけれども、イスラエルを支配するために神の命によって聖別された者に、手をふり上げることを拒んだのであった。しかし、アマレク人は、イスラエルの王を殺したことを、恐れもせずに誇った。彼は、死に値する犯罪を犯したことを自認したのであって、その罰はすぐに与えられた。ダビデは言った。「あなたの流した血の責めはあなたに帰する。あなたが自分の口から、『わたしは主の油を注がれた者を殺した』と言って、自身にむかって証拠を立てたからである」(同1:16)。PP 362.2
ダビデは、サウルの死を心から深く悲しんだ。それは、ダビデの気高い心の広さをあらわしていた。彼は、敵が倒れたことを喜ばなかった。彼がイスラエルの王座につく障害は除かれたけれども、彼はこれをうれしく思わなかった。サウルの不信と残酷さの記憶は、死によって消し去られて、気高い王者としての彼の記憶のほかは、何も心に浮かばなかった。サウルの名は、真実で無我の友情の持ち主であったヨナタンの名と結び合わされた。PP 362.3
ダビデが、彼の気持ちを表現した歌は、彼の国の宝となり、その後の各時代の神の民の宝となった。PP 362.4
サウルとヨナタンとは、愛され、かつ喜ばれた。PP 362.18
イスラエルの娘たちよ、サウルのために泣け。PP 362.22
わが兄弟ヨナタンよ、あなたのためわたしは悲しむ。PP 363.4
あなたはわたしにとって、いとも楽しい者であった。PP 363.5