本章はダニエル4章に基づく PK 578.2
ネブカデネザルは世界的栄誉の最高峰に立ち、霊感の書にさえ「王の王」として認められたのであったが(エゼキエル26:7)、時には彼の王国の栄光と治世の輝きが、主の恵みによるものであることを認めたのであった。彼が巨大な像の夢を見た後などは、そうであった。彼はこの幻によって強い印象を受けた。そして世界的であるとは言っても、バビロン帝国はついに倒れ、他の国々が支配権を握るに至り、最後には天の神が建設される王国が、地上のすべての国々にとって代わるのである。またその国は、いつまでも滅びないということに深い感銘をおぼえた。 PK 578.3
ネブカデネザルが諸国に関する神のみこころについて抱いたすぐれた考えは、後になって失われていった。しかしドラの平野の群衆の前で彼の高慢な心が低くされた時に、彼はふたたび、神の国は「永遠の国、その主権は世々に及ぶ」ことを認めたのであった。彼は生まれながらの偶像教徒であり、偶像教徒の教育を受け、偶像教国民の王であったにもかかわらず、生まれつき正義感が強かった。そこで神は、反逆者を懲らしめ、神のみこころを達成する器として彼をお用いになることができた。ネブカデネザルは「もろもろの国民の最も恐れている者」といわれ(同28:7)、幾年にもわたる辛抱強い労苦の末、ツロを征服した。エジプトもまた彼の勝ち誇った軍隊の餌食となった。そして彼が国々を次々にバビロンの領地に加えていった時に、その時代の最大の王としての彼の名声は、ますます高まった。 PK 578.4
このように野望と誇りに満ちて栄えていろ王が、唯一の偉大さへの道である、謙遜の道を離れる誘惑に会ったとしても不思議ではない。彼は征服戦争の合間に、首都の強化と美化に大いに心を用いた。そしてバビロンの都は、ついに彼の王国の最高の栄光、「黄金の都」、「全地の人の、ほめたたえた者」となるに至ったのである。建設者としての彼の情熱、また、バビロンを世界の不思議の1つにした彼の著しい成果などは、彼の心を高ぶらせて、ついに神がみこころを達成するために引き続いてお用いになることができる、賢明な王としての記録を損なう重大な危険に陥ったのである。 PK 578.5
神は王をあわれんで、彼にもう1つの夢を与えて彼の危機と、彼を陥れるために設けられたわなについて警告を発せられた。ネブカデネザルは夜の幻の中で、地の中央に1本の大きな木が生えているのを見た。その高さは天に達し、その枝は地の果てまで広 がっていた。山や丘の羊、山羊、牛などの群れがその影の下にやどり、空の鳥がその枝に巣をつくった。「その葉は美しく、その実は豊かで、すべての者がその中から食物を獲、……すべての肉なる者はこれによって養われた」(ダニエル4:12)。 PK 578.6
王が大きな木を眺めていると、彼は「ひとりの警護者、ひとりの聖者」が木に近づいて、大声で叫ぶのを見た。 PK 579.1
「この木を切り倒し、その枝を切りはらい、その葉をゆり落し、その実を打ち散らし、獣をその下から逃げ去らせ、鳥をその枝から飛び去らせよ。ただしその根の切り株を地に残し、それに鉄と青銅のなわをかけて、野の若草の中におき、天からくだる露にぬれさせ、また地の草の中で、獣と共にその分にあずからせよ。またその心は変って人間の心のようでなく、獣の心が与えられて、7つの時を過ごさせよ。この宣言は警護者たちの命令によるもの、この決定は聖者たちの言葉によるもので、いと高き者が、人間の国を治めて、自分の意のままにこれを人に与え、また人のうちの最も卑しい者を、その上に立てられるという事を、すべての者に知らせるためである」(ダニエル4:13~17)。 PK 579.2
明らかに災いの予告と思われる夢に大いに悩まされた王は、それを「博士、法術士、カルデヤびと、占い師」に語った。しかし、夢は非常に明白であるにもかかわらず知者たちの中にそれを解き明かしうる者は1人もいなかった。 PK 579.3
ただ神を愛し恐れる者だけが、天国の神秘を理解することができるという事実が、この偶像教国においてもう1度あかしされるのであった。王は困惑して、誠実と節操、また比類ない知恵の持ち主として尊ばれていた彼のしもベダニエルを召し出した。 PK 579.4
ダニエルが招きに答えて王の前に立ったとき、ネブカデネザルは言った。「博士の長ベルテシャザルよ、わたしは知っている。聖なる神の霊があなたのうちにやどっているから、どんな秘密もあなたにはむずかしいことはない。ここにわたしが見た夢がある。その解き明かしをわたしに告げなさい。」ネブカデネザルは夢を語ったあとで言った、「ベルテシャザルよ、あなたはその解き明かしをわたしに告げなさい。わが国の知者たちは、いずれもその解き明かしを、わたしに示すことができなかったけれども、あなたにはそれができる。あなたのうちには聖なる神の霊がやどっているからだ」(同4:9、18)。 PK 579.5
ダニエルにとって夢の意味は明らかであった。そしてその意義は彼を驚かせた。「ダニエルは、しばらくのあいだ驚き、思い悩んだ」。王はダニエルのためらいと悩みを見て、彼のしもべに同情をあらわした。「ベルテシャザルよ、あなたはこの夢と、その解き明かしのために、悩むには及ばない」と王は言った(同4:19上句)。 PK 579.6
ダニエルは答えて言った。「わが主よ、どうか、この夢は、あなたを憎む者にかかわるように」(同4:19下旬)。ネブカデネザルの誇りと傲1慢のゆえに、今や刑罰が彼に臨もうとしていることを告げる厳粛な義務が神から自分に負わせられたことをダニエルは自覚した。ダニエルは王の理解できる言葉で夢の解き明かしをしなければならなかった。そしてその恐るべき重大性に、物も言えないほど驚いてためらったのであるが、自分がどんなことになっても真理を語らなければならなかった。 PK 579.7
そこでダニエルは、全能の神の命令を伝えた。「あなたが見られた木、すなわちその成長して強くなり、天に達するほどの高さになって、地の果までも見えわたり、その葉は美しく、その実は豊かで、すべての者がその中から食物を獲、また野の獣がその陰にやどり、空の鳥がその枝に住んだ木、王よ、それはすなわちあなたです。あなたは成長して強くなり、天に達するほどに大きくなり、あなたの主権は地の果にまで及びました。ところが、王はひとりの警護者、ひとりの聖者が、天から下って、こう言うのを見られました、『この木を切り倒して、これを滅ぼせ。ただしその根の切り株を地に残し、それに鉄と青銅のなわをかけて、野の若草の中におき、天からくだる露にぬれさせ、また野の獣と共にその分にあずからせて、7つの時を過ごさせよ』と。 PK 579.8
王よ、その解き明かしはこうです。すなわちこれはいと高き者の命令であって、わが主なる王に臨まんとするものです。すなわちあなたは追われて世の人を離れ、野の獣と共におり、牛のように草を食い、天からくだる露にぬれるでしょう。こうし7つの時が過ぎて、ついにあなたは、いと高き者が人間の国を治めて、自分の意のままに、これを人に与えられることを知るに至るでしょう。また彼らはその木の根の切り株を残しおけと命じたので、あなたが、天はまことの支配者であるということを知った後、あなたの国はあなたに確保されるでしょう」(ダニエル4:20~26)。 PK 580.1
ダニエルは忠実に夢の解き明かしをしたあとで、高慢な王に、悔い改めて神に立ち返り、正義を行って切迫した災いを免れるように訴えた。「それゆえ王よ、あなたはわたしの勧告をいれ、義を行って罪を離れ、しえたげられる者をあわれんで、不義を離れなさい。そうすれば、あるいはあなたの繁栄が、長く続くかもしれません」とダニエルは嘆願した(同4:27)。 PK 580.2
しばらくの間、預言者の警告と勧告は、ネブカデネザルの心に強い印象を与えた。しかし神の恵みによって変えられていない心は、やがて聖霊によって与えられた感銘を失うのである。王の心からは、まだ、放縦と野望とが根絶されていなかった。そしてこれらの性質は、後にまた現れた。ネブカデネザルは、神が恵みのうちに彼にお与えになった教えや、過去の経験の警告にもかかわらずふたたび彼に続いて起こる王国に対して、嫉妬心を押えることができなくなった。これまで大いに公正で恵み深かった彼の支配が、圧政的になった。彼は心を頑なにして、神から与えられた才能を自己に栄光を帰するために用い、生命と力とをお与えになった神以上に自分を高めるために用いた。 PK 580.3
神の刑罰は幾月も延ばされた。しかしこうした寛容によって悔い改めに導かれる代わりに、王は誇り高ぶってついに夢の解き明かしを信じなくなり、以前心に抱いた恐怖を嘲笑するに至った。 PK 580.4
警告を受けてから1か年後、ネブカデネザルは宮殿の中を歩きながら、自分の王としての権力と建設者としての成功を誇って、「この大いなるバビロンは、わたしの大いなる力をもって建てた王城であって、わが威光を輝かすものではないか」と叫んだ(同4:30)。 PK 580.5
誇らかな言葉がなお王の口にあるうちに、天からの声がくだって、神がお定めになった刑罰の時が来たことを告げたのである。彼の耳に主の命令がくだった。「ネブカデネザル王よ、あなたに告げる。国はあなたを離れ去った。あなたは、追われて世の人を離れ、野の獣と共におり、牛のように草を食い、こうして7つの時を経て、ついにあなたは、いと高き者が人間の国を治めて、自分の意のままに、これを人に与えられることを知るに至るだろう」(同4:31、32)。 PK 580.6
一瞬のうちに、神が彼にお与えになった理性が取り去られた。王が完全であると思った判断力、王が誇った知恵は取り去られて、かつての偉大な王は狂人となってしまった。彼はもはや、王位にとどまることはできなかった。彼は警告の言葉を受け入れなかったのである。今やネブカデネザルは、創造主が彼にお与えになった権力を奪われて、人々から追われて、「牛のように草を食い、その身は天からくだる露にぬれ、ついにその毛は、わしの羽のようになり、そのつめは鳥のつめのようになった」(同4:33)。 PK 580.7
ネブカデネザルは7年の間、全国民の驚きの的であった。彼は7年の間、全世界の前で屈辱をこうむった。それから彼の理性が回復されて、彼は心を低くして天の神を見上げ1この懲罰が神の手によるものであることを認めた。彼は公の布告の中で自分の罪を認め、彼を回復させて下さった神の大きな憐れみを認めた。彼は次のように言った。「こうしてその期間が満ちた後、われネブカデネザルは、目をあげて天を仰ぎ見ると、わたしの理性が自分に帰ったので、わたしはいと高き者をほめ、その永遠に生ける者をさんびし、かつあがめた。 PK 580.8
その主権は永遠の主権、 PK 580.9
その国は世々かぎりなく、 PK 580.10
地に住む民はすべて無き者のように思われ、 PK 580.11
天の衆群にも、 PK 580.12
地に住む民にも、 PK 581.1
彼はその意のままに事を行われる。 PK 581.2
だれも彼の手をおさえて PK 581.3
『あなたは何をするのか』と言いうる者はない。 PK 581.4
この時わたしの理性は自分に帰り、またわが国の光栄のために、わが尊厳と光輝とが、わたしに帰った。わが大臣、わが貴族らもきて、わたしに求め、わたしは国の上に堅く立って、前にもまさって大いなる者となった」(ダニエル4:34~36)。 PK 581.5
かつての高慢な王は、謙遜な神の子となった。暴君的で専制的な王が、賢明で恵み深い王になった。天の神に反抗して神をののしった王が、今はいと高き神の力を認めた。そして熱心に主を恐れて、国民の幸福を追求するようになったのである。ネブカデネザルは、王の王、主の主であられる神の譴責を受けて、ついにすべての王が学ばなければならない教訓を学んだ。それは、真に偉大であるということは、真にいつくしみ深くあるということである。彼は主が生ける神であることを認めて、「そこでわれネブカデネザルは今、天の王をほめたたえ、かつあがめたてまつる。そのみわざはことごとく真実で、その道は正しく高ぶり歩む者を低くされる」と言った(同4:37)。 PK 581.6
世界最大の王国が神をほめたたえるようになるという、神のみこころは達成されたのである。ネブカデネザルが、神の憐れみといつくしみ深さと権力とを認めたこの公の布告は、聖書の歴史に記されている彼の生涯の最後の行為となった。 PK 581.7