「われわれは、この法令を拒否しよう。良心の問題に関しては、多数といえども権力を有しない」と諸侯は言った。また代議員たちは言った。「帝国の平和が保たれているのは、一五二六年の勅令のおかげである。それを破棄すれば、全ドイツは紛争と分裂に陥るであろう。国会は、会議が開かれるまで宗教の自由を保つより他に、何もすることはできない」。良心の自由を保護することは、国家の義務である。そして、宗教のことに関して、これが国家の権力の限界である。国家の権力によって、宗教的行事を規定し、または強制しようとする政府はみな、福音を信じるキリスト者が、そのために雄々しく闘った原則そのものを犠牲にしているのである。 GCJap 232.1
法王側は、彼らのいわゆる「大胆な強情」を鎮圧しようと決意した。彼らはまず、宗教改革の支持者間に分裂を起こさせ、またそれに公然と賛成していない者をみな威嚇しようとした。ついに、自由都市の代表者たちは議会に召喚され、提案の条項に同意するかどうかを宣言することを要求された。彼らはしばらくの猶予を願ったが、許されなかった。彼らは試問を受け、その約半数は改革者の側についた。良心の自由と各自の判断の権利を犠牲にすることを拒んだ者は、そうした立場をとったことが、将来批判や非難や迫害の的になることをよく知っていた。代議員の一人は、「われわれは、神の言葉を拒否するか、それとも火刑になるかのどちらかである」と言った。 GCJap 232.2
議会における皇帝の代理者、フェルディナント王は、諸侯に法令を受け入れさせ支持させるのでなければ、重大な分裂が起こるのに気づいた。そこで彼は、彼らに対して暴力を用いることは、ますます彼らの決意を固めさせるだけであることを悟って、努めて彼らを説 GCJap 232.3
得することにした。彼は、「諸侯に、法令を承認することを請い、皇帝はそれを非常に喜ばれるであろうと断言した」。しかし、忠実な諸侯は、地上の支配者以上の権力を認めていた。そして、彼らは、冷静に、「われわれは、平和の維持と神の栄光のためであるならば、万事皇帝に従う」と答えた。 GCJap 233.1
ついに王は、議会において、選挙侯と彼の支持者たちに、法令は「皇帝の勅令として発布されるばかりであり」「彼らの残された唯一の道は、多数に従うだけである」と伝えた。彼は、こう言ってから議会を退場し、改革者たちに討議や返答の機会を与えなかった。「彼らは使者を派遣して、王が議会に戻るように懇請したが、無駄であった」。彼らの抗議に対して、王は、「これはすでに決定している。後は服従があるのみである」と答えるだけであった。 GCJap 233.2
皇帝側は、キリスト教諸侯が聖書を人間の教義や規則以上のものとして固守することを知っていた。そして、この原則が受け入れられているところはどこでも、必ず法王権がくつがえされてしまうことを知っていた。しかし、彼らの時代以降の幾多の者たちと同様に、彼らは、ただ「見えるもの」だけを見て、皇帝と法王の側が強く、改革者の運動は弱いと思いこみ、得意になったのであった。もし改革者たちが、人間的な助けだけに頼っていたならば、法王側の想像したとおり無力であったことであろう。しかし、数は少なく、ローマに敵対してはいても、彼らには力があった。彼らは、「議会の決議ではなくて、神の言葉、カール皇帝ではなくて、王の王、主の主であられるイエス・キリストに」訴えたのである。 GCJap 233.3