まえがき
- まえがき
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- 第一章 人類救済への神の計画
- 第二章 十二弟子の訓練
- 第三章 大いなる任命
- 第四章 聖なる霊下る
- 第五章 聖霊の働き
- 第六章 美しの門での奇跡
- 第七章 偽善が招いた死
- 第八章 ユダヤ議会での証言
- 第九章 組織と指導者
- 第一〇章 ステパノの弁明
- 第一一章 へだての壁を越えて
- 第一二章 迫害者から弟子へ
- 第一三章 砂漠での内省の日日
- 第一四章 神は人をかたより見ない
- 第一五章 牢獄から救われたペテロ
- 第一六章彼らは“クリスチャン”と呼ばれた
- 第一七章パウロの第一次伝道旅行
- 第一八章豹変した群衆
- 第一九章エルサレム会議
- 第二〇章パウロの第二次伝道旅行
- 第二一章エーゲ海を渡る
- 第二二章テサロニケでの働き
- 第二三章文化の中心アテネにて
- 第二四章退廃の都コリントにて
- 第二五章テサロニケ教会への手紙
- 第二六章 植える者と水をそそぐ者
- 第二七章 エペソでのめざましい働き
- 第二八章 銀細工人たちの騒動
- 第二九章 共に悩み、共に喜ぶ
- 第三〇章 競走に勝ち抜くために
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まえがき
人間がもし次の世代のことを考えなくなるとしたら、そこはもう人間の社会ではない。しかし今われわれが住んでいる社会は、すでにその兆候を示しはじめている。教育の荒廃はわが国だけでなく世界の問題となっているし、古い道徳と価値がすたれ、人はそれぞれ自分がよいとする道を歩んでいる。また一方に圧制があって、若い人たちの道を阻はばんでいる。次代をになう子供たちはいったいどんな社会に入りつつあるのであろうか。AAJ 1.1
ノーべル文学賞作家アレクサンドル・ソルジェニーツィン氏は、先ごろ西欧の自由社会を批判して、「物質的な向上に狂奔する西側文明の社会では、人間の精神が弱まり、東側社会より弱体化している」と演説した。このソルジェニーツィン氏の言葉は見過ごしてはならない鋭い指摘を持っている。AAJ 1.2
われわれの社会における精神の弱体化は多くの複合的な要因によってもたらされたものであろう。今日、「物質的な向上に狂奔する」余り、心を失った現象が余りにも多くなってきた。その結果、われわれは将来を望むことが困難になってきた。やがてわれわれの子 子供や孫たちが入っていくであろう社会について、われわれは大きな不安をいだくことなく、考えることができなくなった。われわれは今、無責任にも子供を育て、彼らを霧の彼方へ追いやろうとしているのであろうか。AAJ 1.3
戦後三十年を経て、われわれの社会はまだ精神的な理想を失ったままでいる。学校においても家庭においても、まだ心の教育は確立していない。若者たちは物質的なものを求めるが、心の充実を求めない。小学生の自殺が相次いで起こっている。少年少女はあてどもなく大都会の盛り場を歩きまわり、家も故郷も失った根なし草のような人びとが、刹那せつな的な興奮を求めて競馬場へと殺到する。若者や子供だけではなく急激に増大した老人社会は、人間らしさに飢えた老人たちの大衆によって、ますます人間疎外の状況を深刻にしていくにちがいない。今や社会の見えないところに内攻していく社会病理は、人間そのものの変革を要求している。現代社会が最も必要としていることは精神の優位の確立であり、品性の建設である。AAJ 2.1
本書『患難から栄光へ』は一世紀のキリスト信徒の物語であるが、それはおどろくべき人間変革の記録でもある。ここでは、かつてローマ帝国の片田舎に住んでいた無学の農民や漁夫たちが、今や有数の精神的指導者として、岩のように確固として立つのを見る。も はや彼らは無知でも無学でもない。彼らが語る言葉は人びとを震憾しんかんし、生かすのである。彼らをとりまいて有力な団体が形成されていく。この団体は軍隊の力や政治家の援助を必要としない。また資金に乏しく、貧しい下層民を抱かかえている。しかし、内外の偏見と圧迫に耐えながら、民族の固い殻を破って、広く世界へ福音を伝えていったのである。後世、ローマ帝国は亡びたが、この「無学なただの人たち」の団体は、滅亡に瀕ひんするローマの人びとを救い、今日まで永続しているのである。AAJ 2.2
初期のキリスト教徒の発展の理由は、歴史家によってさまざまに論じられているけれども、第一に言えることは、彼らの間にあった愛の共同体である。ローマの苛酷な支配によって地中海世界の人びとから奪い去られた最も貴重なものは、彼らの共同体であったと言われている。その帰属する部族や民族を失って根なし草になった人びとに、キリスト教徒は新しい心のよりどころを与えた。それは相互いに自己を捨てて奉仕し合う愛の共同体であった。そこで人びとは新しい生命を得て、自己を変革していった。そこにあるものは生きる目標の高尚さであり、より高く、より純潔で、より崇高な生活へと向上する力であった。その力こそ、キリストの弟子たちがキリストから受けた力であり、品性を再創造する神聖な力であった。この力こそ崩壊の危機に瀕ひんしたローマ帝国の人びとを救った神の恩寵 であった。AAJ 3.1
今日、われわれが新しく問い直さなければならないのは、崩壊の不安に閉ざされている現代社会を救う道についてである。それは人間を基本から変革し、愛の共同体をつくりあげる力について問うことである。AAJ 4.1
いったい今の時代に人間を変革する神聖な力とは何であろうか。いったい愛とは何であるのか。どうしたらわれわれは愛することができるのであろうか。そしてどうしたら、時代の悪い趨勢すうせいにうち勝って、新鮮な愛の共同体を現代に、そして次の世代に形成していくことができるのであろうか。AAJ 4.2
このような課題を覚えながら、『患難から栄光へ』を世に問うこどは、発行者の喜びとするところである。本書は著名なキリスト教著述家であり、信仰の実践者であったエレン・G・ホワイト女史の著作で、原版は一九一一年に発行されたものである。本書は、邦訳「ホワイト選集」(全十一巻)に加えられ、「聖書と信仰の歴史」のうち初期の教会の発展を扱っている。AAJ 4.3