第1章 ソロモン王の選択
- 序
- 第1章 ソロモン王の選択
- 第2章 エルサレム神殿の建設
- 第3章 繁栄の落とし穴
- 第4章 権力者が倒れるとき
- 第5章 ソロモン王の改心
- 第6章 王国の分裂
- 第7章 悲劇の王ヤラベアム
- 第8章 急速にひろがった背信
- 第9章 預言者エリヤの出現
- 第10章 罪を責める声
- 第11章 カルメル山の対決
- 第12章 砂漠へ逃れる預言者
- 第13章 失敗から立ちあがる
- 第14章 預言者エリヤの力
- 第15章 妥協するヨシャパテ王
- 第16章 アハブ家の没落
- 第17章 預言者エリシャの召し
- 第18章 悪水を良水にかえる
- 第19章 平和をつくり出す人
- 第20章 大国シリヤからの訪問者
- 第21章 預言者工リシャの貢献
- 第22章 アッスリヤの首都ニネベ
- 第23章 大国アッスリヤの支配
- 第24章 破滅を定めるもの
- 第25章 預言者イザヤの召し
- 第26章 「あなたがたの神を見よ」
- 第27章 大国に援助を求めたアハズ王
- 第28章 熱心な改革者ヒゼキヤ王
- 第29章 虚栄のつけ
- 第30章 大国アッスリヤからの解放
- 第31章 諸国民の希望
- 第32章 暗黒時代をもたらしたマナセ王と改革の星ヨシヤ王
- 第33章 律法の書の発見
- 第34章 立ちあがった預言者エレミヤ
- 第35章 破滅が近い
- 第36章 ユダ王国の最後の王
- 第37章 バビロン捕囚
- 第38章 暗黒を貫く光
- 第39章 バビロン王宮の4青年
- 第40章 ネブカデネザル王の夢
- 第41章 火の燃える炉からの救い
- 第42章 真の偉大さとは何か
- 第43章 目に見えない守護者
- 第44章主義に固く立つ
- 第45章 バビロン捕囚から帰る
- 第46章敵対者に直面して
- 第47章大祭司ヨシュアと天使
- 第48章 権力をこえる力
- 第49章 王妃エステルの決心
- 第50章 学者エズラに導かれた改革
- 第51章 精神の大覚醒
- 第52章 総督ネヘミヤの活躍
- 第53章 市街の建てなおし
- 第54章 搾取に対する譴責
- 第55章 隣国の陰謀
- 第56章 律法の公布
- 第57章 改革が始まる
- 第58章 救い主を待望する人々
- 第59章 理想のイスラエル
- 第60章 栄光にみちた国が来る
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第1章 ソロモン王の選択
イスラエルはダビデとソロモンの治世に、諸国間で強力になり、真理と正義のために大きな影響を及ぼす機会が多くあった。主のみ名は高く掲げられあがめられて、イスラエルの民が約束の国に確立された目的が実現するかに思われた。障壁は除かれた。そして、異教の国々から真理を求めて来た人々は満たされずに去ることはなかった。改心者が起こった。そして、地上における神の教会は拡張し繁栄した。PK 404.1
ソロモンは父ダビデの晩年に油を注がれて王位についた。ダビデは彼のために退位したのである。ソロモンの生涯の初期は希望に輝いていた。そして、彼が力から力へ、栄光から栄光へと進み、彼の品性がますます神の品性に近づき、こうして、神の民が真理の保管者としての聖なる任務を果たすように、彼らを鼓舞することが神のみこころであった。PK 404.2
イスラエルに対する神の大いなるみこころは、統治者と国民とがたゆまず目を覚ましていて、彼らの前に置かれた標準に達するように努力することによってのみ達成されることを、ダビデは知っていた。彼は、その子ソロモンが、神が彼に授けることをよしとされた信頼にこたえるためには、この若い統治者が、ただ勇士、政治家、国王であるばかりではなくて、力に満ちた善良な人物であり、義の教師、忠誠の模範でなければならないことを知っていた。PK 404.3
ダビデは慈愛深い熱誠さをもって、ソロモンが、男らしく気高くあるように訴え、彼の国民にあわれみと慈愛とを示し、地上の国々とのあらゆる交渉において、神のみ名に栄誉と栄光を帰し、きよい美を表すように訴えた。ダビデは彼の一生の間に多くの苦しいただならぬ経験によって、高潔な美徳の価値を学んだ。そして、ソロモンに対して次のような遺言をしたのである。「人を正しく治める者、神を恐れて、治める者は、朝の光のように、雲のない朝に、輝きでる太陽のように、地に若草を芽ばえさせる雨のように人に臨む」(サムエル下23:3、4)。PK 404.4
ああ、ソロモンはなんという機会に恵まれていたことだろうか。もし彼が神の霊感による父の教えに従ったならば、彼の治世は詩篇72篇に描かれているような正義の治世となったことであろう。PK 404.5
公平をもってあなたの貧しい者をさばくように。PK 404.9
タルシシおよび島々の王たちはみつぎを納め、PK 404.16
シバとセバの王たちは贈り物を携えて来るように。PK 404.17
ひねもす彼のために祝福が求められるように。PK 404.23
その名声は日のあらん限り、絶えることのないように。PK 404.25
もろもろの国民は彼をさいわいなる者ととなえるように。PK 404.27
ソロモンは若かった時、ダビデの選んだとおりの道 を選び、長年の間正しく歩み、彼の生涯は神の戒めに対する厳格な服従がその特徴になっていた。彼はその治世の初期において、国家の顧問官たちとともに、荒野に建てられた幕屋がまだ残っていたギベオンに行った。そしてそこで、彼は「1000人の長、100人の長、さばきびとおよびイスラエルの全地のすべてのつかさ、氏族のかしらたち」など彼が選んだ顧問官たちと1つになって神に犠牲を献げて、自分たちを全く主の奉仕に献身したのである(歴代志下1:2)。ソロモンは、王の務めに関連した義務の重要さを理解して、重い責任を負っている者がその責任を満足に果たそうとするならば、知恵の源であられる神の指導を求めなければならないことを悟った。そこで彼は、彼の顧問官たちに心から彼と心を1つにして、神に受け入れられることを求めるように促したのである。PK 404.33
王は、神が彼にお与えになった仕事をなしとげるために、この地上のどんな幸福よりも知恵と悟りを願い求めた。彼は機敏な心、寛大な心、慈悲深い心が与えられることを望んだ。その夜、主が夢のうちにソロモンに現れて「あなたに何を与えようか、求めなさい」と言われた。それに答えて、若く経験に乏しい王は、自分の無力感と助けを願い求めている気持ちとを表明した。「「あなたのしもべであるわたしの父ダビデがあなたに対して誠実と公義と真心とをもって、あなたの前に歩んだので、あなたは大いなるいつくしみを彼に示されました。またあなたは彼のために、この大いなるいつくしみをたくわえて、今日、彼の位に座する子を授けられました。PK 405.1
わが神、主よ、あなたはこのしもべを、わたしの父ダビデに代って王とならせられました。しかし、わたしは小さい子供であって、出入りすることを知りません。かつ、しもべはあなたが選ばれた、あなたの民、すなわちその数が多くて、数えることも、調べることもできないほどのおびただしい民の中におります。PK 405.2
それゆえ、聞きわける心をしもべに与えて、あなたの民をさばかせ、わたしに善悪をわきまえることを得させてください。だれが、あなたのこの大いなる民をさばくことができましょう』。PK 405.3
ソロモンはこの事を求めたので、そのことが主のみこころにかなった。PK 405.4
そこで神は彼に言われた、『あなたはこの事を求めて、自分のために長命を求めず、また自分のために富を求めず、また自分の敵の命をも求めず、ただ訴えをききわける知恵を求めたゆえに、見よ、わたしはあなたの言葉にしたがって、賢い、英明な心を与える。あなたの先にはあなたに並ぶ者がなく、あなたの後にもあなたに並ぶ者は起らないであろう。わたしはまたあなたの求めないもの、すなわち富と誉をもあなたに与える』」。「わたしはまたあなたの前の王たちの、まだ得たことのないほどの富と宝と誉とをあなたに与えよう。あなたの後の者も、このようなものを得ないでしょう」。PK 405.5
「もしあなたが、あなたの父ダビデの歩んだように、わたしの道に歩んで、わたしの定めと命令とを守るならば、わたしはあなたの日を長くするであろう」(列王紀上3:5~14、歴代志下1:7~12)。PK 405.6
神は、ダビデとともにおられたように、ソロモンとともにおられることを約束された。もし王が主の前で正しく歩み、神が彼にお命じになったことを行うならば、彼の王座は確立し、彼の治世はイスラエルを「知恵あり、知識ある民」として高め、周囲の国々の光とすることになるのであった(申命記4:6)。PK 405.7
ギベオンにおける昔ながらの祭壇の前でささげた、ソロモンの祈りの言葉は、彼の謙遜と神に栄誉を帰そうとする熱意をあらわしている。もし神の助けがなければ、彼に負わせられた責任を果たすのに、彼は子供のように無力であることを自覚したのである。彼は識別力に欠けているのを知り、このような大きな必要感から知恵を神に願い求めたのである。彼の心の中には、他の者の上に自分を高めようとする利己的な知識に対する野望はなかった。彼は自分に負わせられた義務を忠実に果たすことを願った。PK 405.8
そして、彼の治世を神に栄光を帰するものにすることができるような賜物を選んだ。ソロモンは、「わたしは小さい子供であって、出入りすることを知りませ ん」と告白したときほどに富み豊かで、賢明で、真に偉大だったことはなかったのである。PK 405.9
今日、責任を負わせられている者は、ソロモンの祈りが教える教訓を学ばなければならない。人の占める地位が高ければ高いほど、背負う責任も大きく、及ぼす影響の範囲も広くなり、神に依存する必要もそれだけ大きいのである。働きの召しとともに、同胞の前で用心深く歩くという召しをも受けていることを、常に記憶していなければならない。彼は学ぶ者の態度で神の前に立たなければならない。地位は品性を清くしない。人間が真に偉大なものとされるのは、神を尊び、神の命令に従うことによってである。PK 406.1
われわれが仕える神は人をかたよりみない方である。ソロモンに賢く物をわきまえる霊をお与えになった方は、今日、神の子供たちに同じ祝福を喜んでお与えになる。「あなたがたのうち、知恵に不足している者があれば、その人は、とがめもせずに惜しみなくすべての人に与える神に、願い求めるがよい。そうすれば、与えられるであろう」と神のみ言葉に書いてある(ヤコブ1:5)。重荷を背負っている者が、富、権力、名声を求める以上に知恵を求めるならば、失望させられることはない。このような人は、ただ何をすべきかということだけでなく、どのような方法でそれを行って、神のみこころにかなうようにすべきかを、偉大な教師であられるイエスから学ぶのである。PK 406.2
神が識別力と才能をお与えになった人は、献身を維持している限り、高い地位に対する熱望をあらわしたり、支配したり監督したりしようと努めない。人は必要に迫られて責任を負わなければならない。しかし、真の指導者は最高の地位を求めようとはせず善悪をわきまえる理解力が与えられることを祈り求めるのである。PK 406.3
指導者の立場に置かれた人々の道はやさしいものではない。しかし、彼らは困難に出会うごとに、それが祈りへの招きであることを認めなければならない。彼らは、あらゆる知恵の大いなる源であられる神のみこころを伺うことを怠ってはならない。彼らは、大いたる働き人であられる主の力と教えを受けて、悪の勢力に固く立ち向かい、善悪、正邪の区別をすることができるようになる。彼らは神がお認めになるものを認め、神のみ事業のなかに誤った原則がとりいれられることに極力反対するのである。PK 406.4
神はソロモンが、富、栄誉、あるいは長寿などよりも願い求めた知恵を、彼にお与えになった。機敏な知力、寛大な力、慈悲深い精神に対する彼の祈願は聞き入れられた。「神はソロモンに非常に多くの知恵と悟りを授け、また海べの砂原のように広い心を授けられた。ソロモンの知恵は東の人々の知恵とエジプトのすべての知恵にまさった。彼はすべての人よりも賢く、……その名声は周囲のすべての国々に聞えた」(列王紀上4:29~31)。PK 406.5
「イスラエルは皆……王を恐れた。神の知恵が彼のうちにあって、さばきをするのを見たからである」(同3:28)。人々の心はダビデを敬ったようにソロモンを敬い、すべての事において彼に服従した、「ソロモンはその国に自分の地位を確立した。その神、主が共にいまして彼を非常に大いなる者にされた」(歴代志下1:1)。PK 406.6
神に対する献身、高潔さと原則に固く立つこと、神の命令には厳密に服従することなどが、長年にわたって、ソロモンの生涯の特色であった。彼はあらゆる重要な事業を指導し、王国に関係した取引を賢く処理した。彼の富と知恵、彼の治世の初期に建設された壮大な建物や公共事業、彼の言葉と行動に現れた活気、敬神深さ、正義、雅量などが、彼の国民の忠誠を得るとともに、多くの国々の王たちの称賛と尊敬とをかち得たのである。PK 406.7
ソロモンの治世の初期に、主のみ名は大いにたたえられた。王が示した知恵と義は、彼が仕える神の優れた特性をすべての国々にあかししたのである。しばらくの間、イスラエルは世の光となり、主の偉大さを示したのである。ソロモンの治世の初期の真の栄光は、卓越した知恵、驚くばかりの富、また、御広範囲に及んだ権力と名声にあったのではなかった。それは、彼が神の賜物を賢明に用いることにより、イスラエルの神の名をたたえたことにあったのである。PK 406.8
年月が経過して、ソロモンの名声が高まった時に、彼は、自分の知的、霊的能力を強めて、彼が受けた祝福を他の人々に分け与え続けることにより神に栄光を帰そうとした。彼に権力と知恵と悟りが与えられたのは、主の恵みによるものであること、また、これらの賜物が与えられたのは、彼が王の王の知識を世界に伝えるためであったことを他のだれよりもよく知っていたのは彼であった。PK 407.1
ソロモンは博物学に特に興味を持ったが、彼の研究は学問の一分野だけにとどまらなかった。彼は生物、無生物を問わず創造されたあらゆる事物を熱心に研究して、創造主について明快な考えを持った。彼は、自然界の威力、鉱物や動物界、あらゆる樹木、かん木、草花の中に、神の知恵の啓示を見た。そして、彼は学べば学ぶほど、神についての知識と神を愛する愛とが、絶え間なく増し加わるのであった。PK 407.2
ソロモンの霊感による知恵は、賛美の歌や多くの格言となって表現された。「彼はまた箴言3000を説いた。またその歌は1500首あった。彼はまた草木のことを論じてレバノンの香柏から石がきにはえるヒソプにまで及んだ。彼はまた獣と鳥と這うものと魚のことを論じた」(列王紀上4:32、33)。PK 407.3
ソロモンの箴言には、清い生活と大きな努力の原則、敬虔な生活へ導く天来の原則、人生のあらゆる行動を支配すべき原則などの概略が述べられている。このような原則が広く一般に普及していたことと、すべての賛美と誉れを帰すべきお方として、神を認めたことが、ソロモンの初期の治世を、物質的繁栄と同時に道徳的に向上した時代としたのであった。PK 407.4
「知恵を求めて得る人、悟りを得る人はさいわいである。知恵によって得るものは、銀によって得るものにまさり、その利益は精金よりも良いからである。知恵は宝石よりも尊く、あなたの望む何物も、これと比べるに足りない。その右の手には長寿があり、左の手には富と、誉がある。その道は楽しい道であり、その道筋はみな平安である。知恵は、これを捕らえる者には命の木である、これをしっかり捕らえる人はさいわいである」と彼は書いた(箴言3:13~18)。PK 407.5
「知恵の初めはこれである、知恵を得よ、あなたが何を得るにしても、悟りを得よ」(同4:7)。「主を恐れることは知恵のはじめである」(詩篇111:10)。「主を恐れるとは悪を憎むことである。わたしは高ぶりと、おごりと、悪しき道と、偽りの言葉とを憎む」(箴言8:13)。PK 407.6
後年において、ソロモンがこれらの驚くべき知恵の言葉に聞き従ったならば、どんなによかったことであろう。「知恵ある者のくちびるは知識をひろめる」(同15:7)と言った人、また、地上の王に帰そうとした賛美を王の王に献げるように地の王たちに教えたその当人が、「高ぶりとおごりと……偽りの言葉」によって、神にのみ帰すべき栄光を自分に帰すことをしなかったならば、どんなによかったことであろう。PK 407.7